和歌山の別居問題(3)別居の際に相手名義の預金を持ち出すことは許されるか
別居の際に相手名義の預金を持ち出すことは許されるか
1.事例
本件では、別居をする際に、妻が、別居後の生活のため、夫名義の預貯金等の財産を無断で持ち出したというケースで考えてみます(現実には妻と夫が逆のケースもありえます。)。
このような場合、夫は持ち出された財産を取り返したり、妻に損害賠償等を請求したりすることはできるでしょうか。
持ち出された財産が、夫の固有の財産であるか、夫婦の共有財産であるかにより結論は異なります。
2.夫の固有財産の場合
夫の固有財産とは、夫が結婚前から貯めていた口座の預金である場合や、夫がその親から贈与や相続で譲り受けたお金である場合などをいいます。(もっとも、結婚前から貯めていた口座に結婚後の収入の出入りがあるといった場合には、通常は結婚前の預金と結婚後の預金が区別できないので、全体として固有財産とはならないことが多いです。)
この場合、妻は、夫の財産を自由に処分する権限はないので、持ち出した財産を夫に返さなければなりませんし、場合により損害賠償責任を負うこともあります。(もっとも、直ちに返すということではなく、別居中の婚姻費用の分担義務や、後の離婚の際の財産分与の中で考慮するということもよくあります。)
3.夫婦の共有財産の場合
夫婦の共有財産とは、共同生活をしている夫婦が婚姻中に築いた財産は夫婦が協力して築いたものであるから、その財産の名義がどちらかにかかわらず、原則としてそれらの婚姻中に築いた財産は夫婦の共有とされることをいいます。
そして、家庭裁判所の実務において、共有の割合は原則2分の1ずつとされています。
このことは、例えば、夫が仕事をして収入を得て、妻が専業主婦で無収入であったとしても同じです。
このような夫婦の共有財産は、本来であれば、離婚をする際の財産分与手続きの中で原則2分の1を分与するという処理がなされるべきといえます。
もっとも、上記のように、夫婦の共有財産であれば、互いに原則2分の1の割合で共有しているのですから、少なくともその範囲内での持ち出しであれば、違法とまではいえず、また、直ちに返還する義務までは認められないと思われます。
裁判例でも下記のとおり、共有財産の一部持ち出しのケースでは損害賠償請求を認めておりません。
①妻が、別居に際し、婚姻中に蓄えた夫名義の預金300万円のうち、150万円を妻名義に変えて持ち出した事案で、裁判所は、妻に2分の1の持分を認め、夫の妻に対する損害賠償請求を認めなかった(横浜地判昭52・3・24)。
②離婚訴訟中に、妻が夫名義の現金や国債等を持ち出して消費した事案で、裁判所は、それら財産が夫婦の共有財産にあたるため、持ち出した財産が将来の財産分与において認められる範囲を著しく逸脱している等の事情が認められず、違法性はなく、最終的には財産分与で決すべきであるとして、夫の妻に対する損害賠償請求を認めなかった(東京地判平4・8・26)。
以 上
なかむら法律事務所・司法書士事務所(和歌山市)
弁護士・司法書士 中村和也