親不孝な子に相続させないようにすることはできるか

推定相続人の廃除・遺留分の放棄について

1.相続させないようにするための方法

 例えば、非行を繰り返したり、家のお金を浪費するなどのいわゆる親不孝な子に遺産を相続させたくない、といったように、家庭の事情等により特定の相続人に遺産を相続させたくない、と考えた場合、どのような手段が取れるでしょうか。

 生前に何も対策をしなければ、その子は他の相続人と同様に相続人となりますので、相続権や遺留分権を有することになります。

 すると、その子は他の相続人に対して、遺産分割協議で相続権を主張したり、仮にその子には相続させない内容の遺言があったとしても遺留分権を主張することができるので、一切相続させないようにするのは困難となります。

 仮に、生前、「一切相続しません」や「相続放棄の手続をとります」との念書をその子に書かせていたとしても、実際に裁判所で相続放棄の手続をとらなければ、遺産分割協議に参加して相続権を主張したり、遺留分権を主張したりすることはできますし、そもそも念書の効力について争われる可能性もありますので、決定的な方法とはいえません。

 相続人に相続させない方法として法的に認められている制度は、「推定相続人の廃除」「遺留分の放棄」があります。

 推定相続人の廃除とは、被相続人の意思に基づいてその相続人の相続資格をはく奪する制度です。生前廃除(民892)と遺言廃除(民893)があります。

 遺留分の放棄とは、その相続人の意思に基づいて自己の遺留分を放棄する制度です。相続開始前の遺留分の放棄(民1043Ⅰ)と相続開始後の遺留分の放棄があります。

2.推定相続人の廃除

(1)廃除事由

 廃除が認められるためには、まず、廃除事由が認められなければなりません。廃除事由には、「虐待」「重大な侮辱」「著しい非行」があります。

「虐待」とは、被相続人に対する暴力や耐え難い精神的な苦痛を与えたことをいいます。

「重大な侮辱」とは、被相続人の名誉や感情を著しく害したことをいいます。

「著しい非行」とは、「虐待」「重大な侮辱」に匹敵する事情、例えば、犯罪行為をしたこと、家の財産の浪費や無断処分をしたこと、不貞行為、長期の音信不通などをいいます。

 これらの事実の存在が明らかに認められ、かつ、相続人がそのような行動をとった背景の事情や被相続人の態度及び行為も考慮したうえで、客観的にこれらの行為が相続関係を破壊するほど重大なものであると認められる場合に廃除が認められます。

 廃除が認められた裁判例としては次のようなものがあります。

 ①長男(廃除対象者)は、父の金品を持ち出して自己のために消費を重ねたり、父らに無断で高額の物品を購入する等し、父らがこれらについて注意をすると長男は暴力をふるい、また、使い込んだ勤務先の金銭を弁償させたり、行方不明になった後、サラ金業者の連絡に対応するなどしなかった事案で、父らとの間の家族的共同関係あるいは相続的共同関係が長男の行為によって破壊されているとして、「虐待、重大な侮辱」又はその他「著しい非行」があるとされ廃除が認められた(岡山家審平成2年8月10日)。

 ②娘(廃除対象者)は、小学校の低学年のころから問題行動を起こすようになり、中学校及び高校学校に在学中を通じて、家出、怠学、犯罪性のある者等との交友等の非行を繰り返し、少年院送致を含む数多くの保護処分を受け、更に18歳に達した後においても、スナックやキャバレーに勤務したり、暴力団員と同棲し、その挙げ句、同人と結婚し、父(被相続人)母が婚姻に反対であることを知っていながら、披露宴の招待状に招待者として父の名を印刷し知人等に送付するという行動に出た、という事案で、娘のこれら一連の行為により、父母が多大な精神的苦痛を受け、また、その名誉が毀損され、その結果家族的協同生活関係が全く破壊されるに至り、今後もその修復が著しく困難な状況となっているとして、廃除が認められた。(東京高決平成4年12月11日)

(2)生前廃除とは

 「遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をう。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を与えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。(民892)」

 つまり、被相続人が、生存中に、自己の住所地の家庭裁判所に対し、廃除の審判を申し立てる制度です。

 廃除を認める審判が確定すると、対象者は相続資格を喪失します。

(3)遺言廃除とは

 「被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。(民893)」

 つまり、被相続人が遺言で、廃除の意思を示している場合、被相続人の死後、遺言執行者が、家庭裁判所に対し廃除を申し立てる制度です。

(4)廃除の効果

 生前廃除の場合は審判の確定時から、遺言廃除の場合は、被相続人の死亡時から、廃除対象者は相続資格を喪失し、相続人ではなくなります。

 よって、廃除が認められると、相続人ではなくなりますので、遺産分割協議に参加して相続権を主張することも遺留分を主張することもできなくなります。

 もっとも、廃除対象者の子は代襲相続することができます。

3.遺留分の放棄

 この制度は、被相続人が、親不孝な子以外の相続人に遺産を分けるという遺言を書いておく又は生前贈与をしておいて、かつ、親不孝な子に遺留分を放棄させることで、相続させないようにする、というように使われます。

(1)相続開始前の遺留分の放棄とは

「相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。(民1043①)」

 つまり、相続人が、被相続人の生存中に、家庭裁判所の許可を受けて遺留分を放棄するという制度です。

 上記の廃除と異なり、被相続人の意思ではなく、あくまで相続人の意思に基づいてなされることが必要ということです。

 家庭裁判所が許可をする際の判断要素としては、

・遺留分放棄の申立が、申立人である相続人の真意によるものかどうか。
・遺留分放棄をする理由に合理性や必要性があるかどうか。
・遺留分放棄と引換えの代償が与えられているかどうか。

などがあり、これら諸事情を総合して遺留分の放棄を認めるのが相当であるか判断するということになります。

(2)相続開始後の遺留分の放棄

 被相続人の死亡後は、家庭裁判所の許可なく可能です。

 もっとも、相続人にとって、被相続人の死亡後に遺留分を放棄することの実益はあまりないので、現実的ではありません。

(3)遺留分の放棄の効果

 遺留分の放棄をした相続人は、他の相続人に対して遺留分を主張できなくなります。

 よって、被相続人が親不孝な子以外の相続人に対して、生前贈与をしたり、遺言で遺産を分けたりしても、親不孝な子から他の相続人に対して遺留分の請求がなされることはなくなります。

 もっとも、相続放棄をしない限り、相続人であることには変わりありませんので、遺言がない場合は、遺産分割協議に参加して相続分を主張できることとに注意してください。

 なお、遺留分を放棄しても相続人ではあるので、相続放棄をしない限り、被相続人の債務(借金)は相続することになります。

以 上

なかむら法律事務所・司法書士事務所(和歌山市)

弁護士・司法書士 中村和也