和歌山の別居問題(2)別居中の妻(夫)に同居することを請求できるか

別居中の妻(夫)に同居することを請求できるか

1.同居請求とは

 別居中の妻(夫)に対して同居を請求することを一般に、同居請求といいます。

 「夫婦は同居し、互いに協力し扶助をしなければならない」(民法752条)ため、夫婦間の同居義務に基づいて同居請求をすることができます。

 同居請求の方法としては、同居を求める調停あるいは審判を家庭裁判所に申立てます。

 調停とは、裁判所において第三者の関与のもと双方が話し合いをすることで、審判とは、裁判所が双方の言い分を聞いたうえで相当と思われる結論を定めるものです。

 いきなり審判を申立てることもできますが、まず調停が行われることがほとんどです。

2.同居請求が認められる場合、認められない場合について

 裁判実務においては、同居請求の判断に際して、婚姻関係がどの程度破綻しているのか、別居についてどちらに原因があったのか、同居を拒否する理由は正当なものか、同居の障害となるような事情はどのようなものか、同居を命じることが夫婦の人格を傷つけることはないか、などの諸事情を考慮していると考えられます。

 この点、裁判所の考えとしては、同居というものは、その性質上、当人の意思に反して強制できるものではないこと、かえって夫婦の人格を傷つける可能性もあること、裁判所の命令で人の気持ちを変えることは困難であること、などの理由により、同居請求を認めることに一般的には消極的といえます。

 もっとも、事案により認められたケースも複数ありますので、以下ご紹介します。

(1)同居請求が認められたケース

 ① 夫妻は、昭和63年に結婚し平成1年生まれの長女がいたところ、妻が平成11年に長女を連れて別居を開始したところ、その年に夫が同居請求の申立てをしたというケースです(なお、夫は妻に対し生活費を支払い続けている。) 。

 裁判所は、夫はこれまで家庭を崩壊させないよう努めてきていること、妻も夫を避けようとまではしていないこと、長女が高圧的な態度で接する夫を嫌っているというのも、通常の親子関係において多く見られるものであること、別居期間もそれほど長期に及んでいないことなどを挙げ、夫婦の婚姻関係は破綻していないし、同居の障害となるような顕著な事情を見いだすこともできないから、妻が同居することを拒否する正当な事由があると認めることはできないとして、妻に同居を命じました(東京高決平12・5・22)。

 ② 婚姻期間25年の夫婦において、妻が、不貞を繰り返す別居中の夫に対して、同居請求の申立てをしたケースです。

 裁判所は、婚姻期間が25年余りと長期間であること、この比較で別居期間は短いこと、妻が夫との同居を望んでいること、等の事情を考えると、結婚共同生活が維持継続される可能性が全く望めないとまではいえないし、同居を命じることが夫婦の尊厳を害するとまではいえない、として妻の同居請求を認めました(大阪高決平17・1・14)。

(2)同居請求が認められなったケース

 ① 夫が女性Aと不貞をし、これが原因で夫が自宅を出て別居し、A宅に宿泊するようになったため、妻が、夫に対し、自宅での同居請求の申立てをしたというケースです。

 裁判所は、別居に至った責任は夫にあるとした一方で、夫が、Aとの関係を清算して同居に応じる意思はなく、別居後、妻との離婚を求めて調停を申し立てたり、また、離婚訴訟の準備をしていること等から、夫婦の関係、互いの感情等を考えると、仮に同居を命ずる審判がされたとしても、夫婦がその同居により互いに助け合うよりも、むしろ一層互いの人格を傷つけ又は個人の尊厳を損なうような結果を招来する可能性が極めて高いと認められるとして、同居を命じるのは相当でないなどとして妻の同居請求を認めませんでした(東京高決平13・4・6)。

② 夫が妻に対し同居請求の申立てをしたところ、妻も夫に対し離婚請求の申立てをしたというケースです。

 裁判所は、妻が約2年間にわたり、調停の内外を問わず一貫して離婚の意思を表明し続けていたこと、夫の同居請求に対抗するかたちで離婚調停の申立てを行い、離婚の意思を明らかにするとともに、一貫して強く同居を拒否していること、仮に、審判により同居を命じられ、同居を拒否し続けることにより結果的に子らを夫側に引き渡さざるを得ないような事態となったとしても、それでも同居はしないと述べているなど、その拒否の意思は極めて強固であること、などを理由として、妻の離婚の意思及び同居を拒否する意思は極めて強固なものであり、翻意して夫との同居に応じる可能性はないとして、夫の同居請求の申立てを認めませんでした(札幌家審平10・11・18)。

以 上

なかむら法律事務所・司法書士事務所(和歌山市)

弁護士・司法書士 中村和也