相続放棄と固定資産税の支払義務について
相続放棄をすれば固定資産税の支払をしなくてよいか
1 相続放棄の効果
相続放棄をしたい場合、相続人は、原則として被相続人の死亡から3か月以内に、家庭裁判所に対し相続放棄の申述(申し立て)をしなければなりません(民938)。
相続放棄をした者は、相続開始時(被相続人の死亡時)にさかのぼって、初めから相続人とはならなかったものとみなされます(民法939)。
とすると、相続放棄をすれば、元々相続人ではなかったことになり、固定資産税の支払義務も相続しない、ということになりそうですが、固定資産税については、下記のとおり、台帳課税主義(課税台帳に登録された者に固定資産税を課税する)という原則がとられており、単純に、相続放棄をすれば支払義務はなくなる、とはいえません。
2 固定資産税の納税義務者
固定資産税は、課税年度の1月1日に不動産を所有する者に課される、とされています(地方税法359、702の6)。
例えば、令和4年1月1日時点での「所有者」に対し、令和4年度の固定資産税の全額が課される、ということです。
「所有者」とは、登記名義人、または、役所が管理している課税台帳に所有者として登録されている者、です(地方税法343Ⅱ)。
登記名義人とは、登記されている土地や建物の登記上の所有者(名義人)のことです。
1月1日時点で、登記名義人あるいは課税台帳上の所有者として登録されている者が死亡していた場合は、現に所有している者が納税義務者となります(地方税法343Ⅱ)。
3 登記名義人あるいは課税台帳上の所有者として登録されている者が死亡し、相続人が相続放棄した場合
登記名義人あるいは課税台帳上の所有者として登録されている者が死亡すれば、相続人がその不動産を相続し所有することになります。家庭裁判所での相続放棄の手続は、申立から受理されるまで、一定の期間を要します。
よって、死亡した年の12月31日までに相続放棄を完了できるか否か、が重要となってきます。
(1)死亡した年の12月31日までに相続放棄が済んだ場合
登記名義人あるいは課税台帳上の所有者として登録されている者が死亡した年の12月31日までに、相続放棄をしたことが分かる証明書(のコピー)を役所に提出すれば、固定資産税の支払義務を負いません。
(2)死亡した年の12月31日までに相続放棄が済まなかった場合
相続放棄の完了が死亡した年の翌年1月以降になってしまった場合、固定資産税の課税上、1月1日時点で相続人が所有していたことになります。
よって、その後に相続放棄が完了したとしても、役所から納税通知書(請求書)が届けば、その(元)相続人は、課税年度(死亡した年の翌年分)の固定資産税の支払義務を負うことになります。
もっとも、死亡した年の翌年1月以降に、相続放棄をしたことが分かる証明書(のコピー)を役所に提出すれば、提出した年の翌年分以降の固定資産税の支払義務は負わなくなります。
4 まとめ
以上のとおり、相続放棄の手続が12月31日までに完了するかしないか、が分かれ目になります。
年をまたぎそうな場合は、相続放棄の手続きを急ぐ必要がある、ということになります。
以 上
なかむら法律事務所・司法書士事務所(和歌山市)
弁護士・司法書士 中村和也