和歌山の相続放棄について(2)相続放棄をすれば一切の義務を負わなくてよいのか

相続放棄をすれば一切の義務を負わなくてよいのか

1.事例

  先日亡くなった父親(「被相続人」といいます。)の遺産の中に老朽化して今にも倒壊しそうな木造家屋や耕作放棄されて荒れ放題の田畑があったとします。母親はかなり前に亡くなっているとします。

  一人息子のA男は、遠方に住んでいるため、これらを管理できず、維持費もかかることから、家庭裁判所で相続放棄の手続(相続放棄申述)をしました。

  このような場合、A男は、木造家屋や田畑を管理する義務は一切なくなるのでしょうか?

2.管理責任はなくなるか

 たしかに、相続放棄申述をすれば、初めから相続人とならなかったものとして取り扱われるので(民法939)、A男は父親の財産を初めから相続しなかったこととなるので、管理責任はなくなるのではないかとも思えます。

 しかし、次のような法律の定めがあります。

「相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。ただし、相続の承認又は放棄をしたときは、この限りではない。(民法918条1項)」

「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。(民法940条1項)」

 よって、相続放棄をした者(A男)は、被相続人(父親)の死亡日から相続放棄をする日までの間は、相続財産(木造家屋や田畑)を管理する義務があり、また、相続放棄をした日以後は、その相続放棄によって相続人となった者(例えば、A男のおじ・おば・いとこ等)が相続財産の管理を始めることができるまで、管理を継続しなければならないということになります。

3.いつまで管理を続けなければならないのか

 とすると、次に、A男はいつまで管理を続けなければならないのか、という問題がでてきます。

 この点は、①A男のおじ・おば・いとこ等といったA男が相続放棄をしたことによって相続人となった者がいる場合と②そのような者がおらず、相続人が不存在となった場合に分けて考えられます。

①A男のおじ・おば・いとこ等といったA男が相続放棄をしたことによって相続人となった者がいる場合

 この場合、A男が、A男のおじ・おば・いとこ等に対し、木造家屋や田畑の管理を引き継ぐことを要求し、引き継がせることができれば、その時点でA男の管理義務は消滅します

 もっとも、A男のおじ・おば・いとこ等が管理を引き継ぐことを拒み、相続放棄をした場合は、管理の引継ぎを要求することはできなくなりますので、そのまま管理を継続するしかありません。

 なお、A男のおじ・おば・いとこ等といった父親の相続人全員が相続放棄をした結果、相続人が誰もいなくなったときは、次に述べる②相続人が不存在となった場合にあたることになります。

②相続人が不存在となった場合

 この場合、何も手を打たなければ、A男は生涯、管理を継続することとなり、また、A男の子といった次の代にも管理責任がついて回ることとなってしまいます。

 よって、管理を継続したくなければ、A男は家庭裁判所に相続財産管理人の選任の申立をし、相続財産管理人に管理を引き継いでもらうこととなります(民法952)。

 相続財産管理人に管理を引き継いだ時点でA男の管理責任は消滅します

 相続財産管理人は裁判所によって選ばれ、弁護士等がなることが多いです。

 申立には事案に応じた金額の裁判所への予納金が必要です(20万円~多いと100万円以上)。

 予納金は、相続財産管理人の管理業務に対する報酬等に充てられるので、相続財産自体の処分等によって報酬を賄うことができれば申立人に返金されることもありますが、多くの場合、相続財産にあまり価値がないことが多いので、予納金が返金されることはないのがほとんどです。

4.まとめ

 相続財産、特に、老朽化した建物、放置された山林や田畑といった不動産については、自然損壊、火事、災害などによって周囲に迷惑や被害をもたらすおそれがあり、その場合、管理者として莫大な損害賠償責任を問われる可能性がありますので、相続財産管理人の選任等の適切な手続きをしておくことをおすすめします。

以 上

なかむら法律事務所・司法書士事務所(和歌山市)

弁護士・司法書士 中村和也