和歌山の別居問題(4)別居中の監護権について
別居中の監護権(子を手元で養育する権利)の争い
1.事例
本件では、母が父に無断で子を連れて実家に帰り別居を開始し、怒った父が母に子を返せと主張している、というケースで考えてみます(現実には母と父が逆のケースもありえます。)。
このような場合、監護権(子を手元で養育する権利)をどのように決めることになるのでしょうか。
2.手続
方法としては、弁護士を代理人として相手と交渉したり、家庭裁判所で調停を行ったりすることもありますが、監護権の争いは感情的な争いになりやすく、話し合いで解決に至る可能性のないことが多いのが現状です。
そこで、家庭裁判所に審判(子の監護者指定、子の引渡し)や審判前の保全処分(子の監護者指定、子の引渡し)を申立てる方法がよくとられます。
審判とは、監護者を裁判所に指定してもらう手続です。また、その結果、子と別居している親が監護者に指定された場合、子と同居している親に対して、子を引き渡せ、と命令してもらうことにもなります。
審判前の保全処分とは、審判手続は結論が出るまでに場合によっては1年以上かかることもあるため、それまでの間、一時的な監護者を裁判所に指定してもらう手続です。監護者を緊急に定める必要がある場合に認められます。
よくあるケースとしては、
①子と別居している側が、監護者を変更することを求めるとともに、子の引渡しを求める。
→審判(子の監護者指定、子の引渡し)+審判前の保全処分(子の監護者指定、子の引渡し)を申立てる。
②子と同居している側が、相手にとやかく言われないようにするため、監護者を現状のままとすることを求める。
→審判(子の監護者指定)を申立てる。
というものがあります。
2.監護者指定の基準
では、裁判所では、どのような事情を基に、監護者を決めるのでしょうか。
大原則として、子の利益を第一に考え、将来的に子の健全な成長にとってよりふさわしい者、が監護者に指定されます。
具体的には下記のような事情が重要とされています。
①別居前の父母それぞれについての子育ての状況
子が生まれてから別居するまでの間、父母がそれぞれどれほど子育てに関わってきたか、ということです。
子の世話(食事、寝かしつけ、遊び、入浴、通院、保育園への送迎など)を多く分担してきたという事情は有利な事情となります。
②現在の子育ての状況
子と同居している親が子育てにどのように関わっているか、子の日常生活や別居している親との面会交流の状況はどのようなものか、ということです。
安定した環境で養育されていることは、同居している親にとって有利な事情となります。
③父母それぞれの子育ての能力、監護態勢
父母それぞれの健康状態、生活リズム、収入、住まいの状況、監護を手助けしてくれる者(監護補助者)の有無、子への愛情や監護することへの熱意の程度、相手と子の面会交流をどの程度まで許すか、などです。
時間的にも質的にも子への関わりが十分できることは、有利な事情となります。
仕事をしている場合、時間的に子への関りがどうしても少なくなりますので、この点のフォローが必要となります。
④子の事情
子の年齢、健康状態、発育状況、父母それぞれに対しどれだけなついているか、子の意思などです。
特に、子の年齢が高くなるほど、子自身の意見が重視されます。
3.別居の原因や経緯は監護者指定に影響するか
(1)別居(夫婦関係の破綻)の原因について
別居の原因として、例えば、一方が不倫をして夫婦仲が悪くなり別居した、というケースを考えます。
たしかに、不倫する夫(又は妻)は、夫(又は妻)としてはふさわしくないといえます。
しかし、父(又は母)としてもふさわしくない、とまでいえるかは別問題です。
父は不倫をしたものの子育てに熱心で子からもなつかれている、一方、母は不倫はしないが子育てに熱心ではない、といったケースも考えられます。
監護者は、あくまで子の利益を第一に考慮して決めます。
もちろん、不倫をして夜遅くまで帰って来ず、子と関わる時間も少ない、といったことがあれば不利な事情となります。
このように、別居した原因によって子に悪影響が生じているかどうか、が重要なポイントとなります。
(2)別居(子の連れ去り)の経緯について
経緯として、例えば、別居後、母の下で養育されていた子を、父が力ずくで奪って養育を開始した、というケースを考えます。
この点も、子に負担や悪影響が生じていないかという見地から判断されます。
乳幼児で母親の関与が不可欠であるにもかかわらず、父親が連れ去った、ということであれば、父親に不利な事情となります。
一方、母親が子を虐待しているため、子の安全のために父親が連れ去った、ということであれば、母親に不利な事情となります。
4.監護者であることは親権者を決める際にも影響するか
一般的に、別居中、監護者として適切な監護をしてきたといえる場合、その後、離婚の親権者を決める際にも、有利な事情となります。
特に、裁判所において監護者に指定された場合は、これまでの諸事情を全て踏まえての判断結果ということになりますので、その後の離婚において親権者争いが生じたとしても、かなり有利な立場になります。
よって、別居中にどちらが監護者になるかということは、離婚時の親権争いにも大きく影響してきますので、できるだけ早期に対応すべきといえます。
以 上
なかむら法律事務所・司法書士事務所(和歌山市)
弁護士・司法書士 中村和也