和歌山の遺言について(3)遺言の無効・取消し

遺言の無効・取消しについて

 遺言の無効や取消しの事由としては、主に、自筆証書遺言の方式違背、共同遺言の禁止、遺言能力の欠如、被後見人の遺言制限、公序良俗違反、その他意思表示の瑕疵(錯誤、詐欺、強迫)が考えられます。

 以下、順に説明します。

1.自筆証書遺言の方式違背

(1)全文の自書

 遺言の内容をすべて自分で筆記することが必要です。

 よって、他人に書いてもらった遺言、ワープロやパソコンで作成した遺言はいずれも無効です。

(なお、このたび法律が改正され、平成31年1月13日以降に作成のものについては、遺言内容のうち、財産目録に限っては、署名押印さえすれば、 自分の手で書かなくとも、パソコンで作成したり、通帳のコピーを付けたりすること等が許されることとなりました。)

 遺言書の一部を他人が作成した場合については、その他人作成部分の意味が付随的・付加的意味を持つにとどまり、その部分を除外しても遺言の趣旨が十分に表現され意味がとおる場合には遺言全体を無効とする必要はないと考えられます。

 また、他人の添え手によって書かれた遺言も原則として無効です。

 もっとも、遺言者が自署能力を有しており、他人の添え手が始筆もしくは改行のため、もしくは字配りや行間を整えるために遺言者の手を用紙の正しい位置に置くにとどまるか、または遺言者の手の動きが遺言者の望みにまかされて単に筆記を容易にするための支えを借りただけであり、かつ、添え手をした他人の意思が筆運びに介入した形跡がないことが筆跡上認められる場合には、自署の要件を満たすものとして有効であるとされた裁判例があります。

(2)日付

 年月日まで特定できなければ無効となります。

 よって、年月の記載があるが日の記載がない遺言、○年○月吉日との記載のある遺言はいずれも特定できないので無効です。

 日付も自書が要求されますので、日付スタンプを用いた遺言は無効です。

(3)押印

 押印のない遺言は無効です。

 実印でなくとも、認印(三文判)や指印でも有効です。

 遺言書本文に押印がなくとも、封印した封筒の封じ目にのみ押印がある遺言書も有効です。

2.共同遺言の禁止

 遺言は二人以上の者が同一の証書で行うことはできません。

 よって、同じ用紙に連名で遺言を書くといずれも無効とされます。

 もっとも、用紙を切り離すと別々の独立した遺言となる場合には、いずれも有効となりえます。

3.遺言能力の欠如

 意思能力がない者のした遺言、15歳に達しない者のした遺言、成年被後見人が事理を弁識する能力を回復していないときにした遺言はいずれも無効です。

 このような状況であれば意思能力がないといえる、といった確立した判断基準はありませんが、遺言者が遺言の意味内容とその効果を一応理解していて、その実現を欲するのに最小限必要な精神能力を備えていれば、意思能力ありといえるのではないかと思われます。

 当時の遺言者の知能や精神の状態、当時の遺言者の生活状況、遺言作成時の言動、遺言の内容の複雑さなどの諸般の事情から判断されます。

 遺言の内容が複雑であればあるほど、それを理解し判断する能力が求められますので、意思能力の判断もその分厳しくなると思われます。

4.被後見人の遺言制限

 被後見人が遺言者である場合、後見人またはその配偶者もしくは直系卑属の利益となる遺言をしたときは、後見人が遺言者の直系血族、配偶者、兄弟姉妹である場合を除き、その遺言は無効となります。

 つまり、被後見人が、親族でもない第三者の後見人に対し財産を与えるとの遺言をしても無効となります。

5.公序良俗違反

 この点、遺言者と不倫関係にある者に対する包括遺贈がよく問題となります。

 不倫相手への遺贈を内容とする遺言が、不倫な関係を維持し継続することを目的としてなされたものである場合には無効との判断に傾き、一方、不倫な関係を維持し継続することを目的としてなされたものでなく、専ら相手の生活を保全するためになされたものであり、相続人らの生活の基盤を脅かすものではない場合には有効との判断に傾くと思われます。

6.意思表示の瑕疵(錯誤・詐欺・強迫)

 遺言者が遺言当時、遺言内容の重要な部分について勘違いがあったり(錯誤)、他人から騙されて遺言を作成したり(詐欺)、他人から無理やり強いられて遺言を作成した(強迫)、といった事情があれば、無効または取り消しの事由となりえます。

以 上

なかむら法律事務所・司法書士事務所(和歌山市)

弁護士・司法書士 中村和也